トラブルシューティングガイド
一般的な問題と解決策
Python DashアプリをAWS Lambdaにデプロイする際に発生する可能性のある一般的な問題と、その解決策を紹介します。
1. デプロイエラー
症状: デプロイコマンド(zappa deploy、sam deploy、aws lambda create-functionなど)の実行時にエラーが発生する。
考えられる原因と解決策:
- AWS認証情報の問題
- AWS CLIが正しく設定されているか確認:
aws configure list
- 必要なIAM権限があるか確認: デプロイには多くのAWSサービスへのアクセス権限が必要
- AWS CLIが正しく設定されているか確認:
- S3バケット名の問題
- バケット名がグローバルに一意であるか確認
- バケット名に無効な文字が含まれていないか確認
- 手動でバケットを作成してみる:
aws s3 mb s3://your-bucket-name
- デプロイパッケージのサイズが大きすぎる
- Lambda関数のサイズ制限(250MB解凍後)を超えていないか確認
- 不要なパッケージや依存関係を削除
- 大きなデータファイルはS3に保存し、Lambda関数から読み込む方法を検討
2. Lambda関数のエラー
症状: デプロイは成功したが、Lambda関数の実行時にエラーが発生する。
考えられる原因と解決策:
- 依存関係の問題
- 必要なパッケージがすべてインストールされているか確認
- パッケージのバージョンの互換性を確認
- Lambda環境と互換性のあるパッケージを使用しているか確認(例:バイナリ依存関係)
- ハンドラー関数の問題
- Lambda関数のハンドラーが正しく設定されているか確認
- ハンドラー関数が正しい引数(event, context)を受け取るように実装されているか確認
- メモリ不足またはタイムアウト
- Lambda関数のメモリサイズを増やす(Dashアプリには最低512MB推奨)
- タイムアウト設定を延長する(デフォルトは3秒、Dashアプリには最低30秒推奨)
3. API Gatewayの問題
症状: Lambda関数は正常に動作するが、API Gateway経由でアクセスできない。
考えられる原因と解決策:
- 統合設定の問題
- API GatewayとLambda関数の統合が正しく設定されているか確認
- Lambda関数の権限設定を確認:
aws lambda get-policy --function-name your-function-name
- ルーティングの問題
- プロキシ統合({proxy+})が正しく設定されているか確認
- ルートパス(/)のメソッドが設定されているか確認
- デプロイの問題
- API Gatewayの変更がデプロイされているか確認
- 正しいステージ名でアクセスしているか確認
Dash固有の問題
1. アセットの読み込み問題
症状: Dashアプリのレイアウトは表示されるが、スタイルやJavaScriptが正しく読み込まれない。
考えられる原因と解決策:
- パスプレフィックスの問題
requests_pathname_prefix
が正しく設定されているか確認- Zappaの場合:
DASH_REQUESTS_PATHNAME_PREFIX
環境変数を設定 - 直接設定の場合:
app = dash.Dash(__name__, requests_pathname_prefix='/stage/')
- 静的アセットの問題
- カスタムCSSやJavaScriptファイルが正しく配置されているか確認
- アセットのパスが正しく設定されているか確認
2. コールバックの問題
症状: Dashアプリのインタラクティブな要素(グラフ、ドロップダウンなど)が正しく動作しない。
考えられる原因と解決策:
- コールバック関数のエラー
- Lambda関数のログでエラーを確認
- コールバック関数の入力と出力が正しく定義されているか確認
- タイムアウトの問題
- コールバック処理が長時間かかる場合、Lambda関数のタイムアウトを延長
- 処理を最適化して実行時間を短縮
3. データの問題
症状: Dashアプリがデータを正しく表示しない、またはデータの読み込みに失敗する。
考えられる原因と解決策:
- データサイズの問題
- 大きなデータファイルはLambda関数に直接含めるのではなく、S3から読み込む
- データの前処理を行い、サイズを削減
- データアクセスの問題
- Lambda関数がデータソース(S3、DynamoDB、RDSなど)にアクセスする権限があるか確認
- VPC内のリソースにアクセスする場合、VPC設定が正しいか確認
デバッグ方法
1. ローカルテスト
AWS環境にデプロイする前に、ローカル環境でアプリケーションをテストすることが重要です。
Zappaを使用する場合:
# ローカル環境での実行
python app.py
# Zappaを使用したローカルテスト
zappa local
AWS SAMを使用する場合:
# ローカル環境での実行
python app.py
# SAMを使用したローカルテスト
sam local start-api
2. ログの確認
AWS環境でのエラーを診断するには、CloudWatchログを確認することが重要です。
Zappaを使用する場合:
# ログの表示
zappa tail dev
AWS SAMを使用する場合:
# ログの表示
sam logs -n FunctionName --stack-name StackName --tail
AWS CLIを使用する場合:
# ログの表示
aws logs filter-log-events --log-group-name /aws/lambda/your-function-name
3. テスト呼び出し
API Gatewayを経由せずに、直接Lambda関数をテスト呼び出しすることで、問題を切り分けることができます。
# テスト呼び出し
aws lambda invoke \
--function-name your-function-name \
--payload '{"path": "/", "httpMethod": "GET", "headers": {}, "queryStringParameters": {}}' \
output.json
# 結果の確認
cat output.json
パフォーマンス最適化
1. コールドスタートの最小化
Lambda関数のコールドスタート(初回起動時の遅延)を最小化するための方法:
- メモリサイズの増加
- Lambda関数のメモリサイズを増やすと、CPUパワーも比例して増加
- Dashアプリには最低512MB、推奨1024MB以上
- ウォームアップ
- Zappaの場合:
keep_warm: true
を設定 - CloudWatchイベントを使用して定期的に関数を呼び出す
- Zappaの場合:
- パッケージサイズの最適化
- 不要な依存関係を削除
- 大きなデータファイルはS3に保存
2. レスポンスタイムの改善
Dashアプリのレスポンスタイムを改善するための方法:
- データの最適化
- データの前処理を行い、必要な情報のみを保持
- キャッシュを活用して、同じ計算を繰り返し行わないようにする
- コールバックの最適化
- 複数のコールバックを統合して、更新回数を減らす
- 計算量の多い処理を最適化
- API Gatewayのキャッシュ
- API Gatewayのキャッシュを有効にして、同じリクエストに対するレスポンスをキャッシュ
ベストプラクティス
1. デプロイ前のチェックリスト
- ローカル環境でアプリケーションが正常に動作することを確認
- 必要な依存関係がすべて
requirements.txt
に記載されていることを確認 - AWS認証情報が正しく設定されていることを確認
- デプロイパッケージのサイズが制限内であることを確認
- Lambda関数のタイムアウトとメモリサイズが適切に設定されていることを確認
2. セキュリティのベストプラクティス
- 最小権限の原則に従ってIAMポリシーを設定
- 機密情報(APIキー、パスワードなど)は環境変数または AWS Secrets Manager に保存
- API Gatewayに適切な認証を設定
- HTTPS通信を強制
3. コスト最適化
- 不要なリソースは削除
- 適切なLambda関数のメモリサイズを選択
- API Gatewayのキャッシュを活用して、Lambda関数の呼び出し回数を減らす
- 使用量が多い場合は、EC2やECSなどの他のサービスへの移行を検討